「自己実現」と聞いて、何を思い浮かべるだろう。
-
出世して成功すること?
-
起業してお金と自由を手に入れること?
-
好きなことだけして生きること?
どれも間違いではないけれど、実はこれらは本来の「自己実現」から少しズレているかもしれない。なぜなら、多くの人が知っている自己実現像は、マズローの欲求5段階説を表面的に切り取っただけのイメージだからだ。
この記事では、
-
自己実現という言葉は、そもそもどこから来たのか
-
マズローの本当の意図はどこにあったのか
-
現代を生きる私たちにとって、自己実現とは何を意味するのか
を、できるだけシンプルに整理していく。
「夢を叶えるためのキラキラした言葉」としてではなく、“生き物としての私たち” に備わっている力としての自己実現を一緒に見直してみよう。
Contents
1章:自己実現のルーツは、マズローより前にいた
クルト・ゴールドシュタインという人
自己実現=Maslow、と思われがちだけれど、実はこの言葉を最初に使ったのはクルト・ゴールドシュタインというドイツの神経学者だ。
彼は、戦争で脳に損傷を負った兵士たちを診る中で、人間の身体や脳には
「壊れても、できる限り元の全体性を取り戻そうとする力」
があることに気づいた。
ゴールドシュタインは、この力を
有機体が自分の可能性を最大限に発揮しようとする根源的な動き
と捉え、それを自己実現と呼んだ。
生物としての「本来の形に戻ろうとする力」
ここが大事なポイント。彼にとって自己実現とは、
-
立派な人になることでも
-
夢を叶えることでもなく
「生命が、本来の自分の姿に戻ろうとする動き」 だった。
植物が光に向かって伸びるように、傷ついた皮膚が自然に再生するように。
自己実現は、まず生物学的な性質として存在していた。
「こうなりたい自分を作る」より、
「もともと備わっている自分らしさが、外にあふれ出てくる」
これが、自己実現の原点だ。
2章:マズローの5段階説と、広まりすぎた誤解
5つの欲求とピラミッド
アブラハム・マズローは、この自己実現の考え方を心理学に取り入れ、有名な「欲求5段階説」 を提案した。
-
Physiological needs(生理的欲求)
-
Safety needs(安全の欲求)
-
Love & Belonging needs(所属と愛の欲求)
-
Esteem needs(承認欲求)
-
Self-actualization needs(自己実現の欲求)
カラフルなピラミッド図でよく見かける、あれだ。
ただ、この「わかりやすさ」ゆえに、世界中で誤解も一緒に広まってしまった。
誤解①:下から順番にクリアしないと上に行けない
「まずお金と安定。その次に人間関係。それが整ってから、ようやく自己実現。」
こう考える人は多いけれど、マズロー自身はこんなにカチッとした階段構造だとは言っていない。
-
欲求は同時に存在しうる
-
下位が完全に満たされなくても、上位の欲求が顔を出すことはある
たとえば貧しくても絵を描き続ける画家や、不安定な時代でも詩や音楽を求める人たち。
彼らは、必ずしも「4段階まで完了してから5段階目へ進んだ」わけではない。
誤解②:成功=自己実現
現代では、
-
高年収
-
ハイキャリア
-
フォロワー数
-
目に見える実績
が、自己実現と同じもののように扱われがちだ。
でも、マズローが言う自己実現は、「承認欲求を満たすための成功」とは別物 だ。
それは、
外からの評価がなくても、
自分の内側からどうしても湧き上がってくる成長への衝動
に近い。
3章:欠乏動機 vs. 成長動機 ― 自己実現を分ける境界線
マズローは後に、欲求の性質を2つに分けて考えた。
-
欠乏動機(D-motivation)
何かが足りないから埋めようとする動き。 -
成長動機(B-motivation)
すでに生きていても大丈夫な状態から、さらに「らしさ」を広げようとする動き。
生理的欲求〜承認欲求までは主に欠乏動機、自己実現は成長動機だとされた。
自分の動機をチェックしてみる
同じ行動でも、動機によって性質が変わる。
-
もっとお金が欲しいのは、
「生活が不安だから」なのか
「やってみたいことの幅を広げたいから」なのか。 -
認められたいのは、
「自信がないから」なのか
「自分の価値を人の役に立てたいから」なのか。
欠乏から動いているとき、手に入れた瞬間にその欲求は弱まる。
でも成長動機から動いているときは、満たされても「もっと深めたい」という新しい欲求が生まれていく。
自己実現とは、この成長動機側に立って生きることだといえる。
4章:自己実現の先にある「自己超越」
マズローは晩年、ピラミッドに第6段階を追加しようとしていた。それが Self-transcendence(自己超越) だ。
-
自己実現:自分の可能性を最大限に生きる
-
自己超越:その自分を通して、もっと大きなものに貢献する
ここまで来ると、意識は
「どう生きたいか」から
「何に自分の命を使いたいか」
へとシフトしていく。
5章:日本で「自己実現」がしっくりこない理由
マズローの理論は、アメリカの個人主義文化の中で生まれた。一方、日本ではもともと、
-
役割を果たすこと
-
誰かのために尽くすこと
-
「道」を究めること
に、自己の意味を見出す文化があった。
西洋の「自分らしく拡大していく自己実現」と、東洋の「自分を削りながら役割に徹する自己実現」。
この2つの価値観が混ざっているからこそ、私たちは「自己実現」という言葉にモヤっとしやすい。
でも、どちらにも共通しているのは、
「本当はどう生きたいか?」という問いから逃げないこと
だと思う。
6章:実際にどう生きる?自己実現への4ステップ
STEP1:欠乏か成長かを見分ける
-
これは「不足の不安」から来ている?
-
それとも「好奇心とワクワク」から来ている?
自分の行動のエネルギー源を、一度冷静に見てみる。
STEP2:「本来の自分」を思い出すヒントを集める
-
評価されなくても、ついやってしまうこと
-
子どもの頃、止められても続けていたこと
-
お金にならなくても、話していると時間を忘れるテーマ
ここに、あなたの自己実現の種が眠っている。
STEP3:小さな実験としてやってみる
いきなり人生を大きく変える必要はない。
-
週に1時間だけ、本当にやりたいことのために時間を確保する
-
「本当はこうしたい」と思っていた行動を1つだけ実行してみる
-
怖いけど気になっていた挑戦を、小さくテストしてみる
自己実現は、派手な決断ではなく今日の小さな選択」を変えるところから始まる。
STEP4:自己超越の視点をそっと持っておく
「この選択は、将来誰の役に立ちえるか?」
そんな問いを持っておくだけで、自己実現は自分だけの物語から誰かと分かち合える物語に変わっていく。
おわりに:自己実現は「どこかにあるゴール」じゃない
自己実現は、いつか到達する「山頂」ではなく、
今この瞬間に、
自分の感覚に正直に選ぶことの連続
そのものだ。
-
本当はやりたくないことを「やめる」勇気
-
誰にも理解されなくても「好き」を選ぶ一歩
-
恐怖ごと、未来への好奇心を抱いて進むこと
その一つ一つが、すでに自己実現のプロセスだ。
P.S.
私自身、長い間「自己実現」という言葉を誤って理解していました。
だから今回の記事は、あえて私のカラーを抑え、正確性にフォーカスして書いています。
ほとんど解釈や感情を入れず、文献と原典に基づいて書かせていただきました。
最後に少しだけ、私の言葉で締めくくりたいと思います。
自己実現とは何か、それを一言で表すなら、
「正解はいつも自分の中にあり、それに忠実に従うこと」だと私は感じています。
そしてこれは、本当は全ての人が潜在的には知っていることなのだと思います。
ただ日々の忙しさや不安、期待や恐れの中でその声がかき消されてしまうだけ。
だからこそ大切なのは、
日常でふと湧き上がる小さな感情を、ひとつひとつ丁寧にすくい上げること。
その感情を否定せず、押し殺さず、
「これは何を教えてくれているんだろう」と真摯に向き合ってみること。
その積み重ねこそが、”本来の自分”に戻っていくプロセス=自己実現なのだと思います。